医業経営のポイント
開業医として独立し医院・クリニックを経営する場合、個人事業として開業するケースと医療法人を設立し経営するケースがあります。節税のメリットや将来分院や介護事業への進出、医院の相続・譲渡 ( 事業継続 ) 合併等のしやすさを考えると医療法人化も見逃せません。また、社会的な信用も個人と比べ高く評価されています。
個人事業と医療法人の違いについて教えてください。
開業医として独立し医院・クリニックを経営する場合、個人事業として開業するケースと医療法人を設立し経営するケースがあります。
個人事業の場合、これまで築き上げた財産は院長( 医師 )個人のものです。医療法人が将来解散や廃業した場合、国、地方公共団体、または一定の医療法人のものとなってしまいます( 第5次医療法改正により平成19年4月1日以降設立された医療法人の場合、定款で定められた場合は出資額まで返還 )。また、大きな違いのひとつとして個人事業の決算期は12月で事業所得として確定申告を行ないますが、医療法人の決算期は定款に定めることによって自由に設定でき、法人から給与が支払われます。

法人化のタイミング

個人事業から医療法人化への見極めは、節税だけでなく将来性やメリット・デメリットも熟考した上で判断しましょう。顧問税理士からのアドバイスや具体的な数字を算出した比較検討も必要不可欠です。例えば、所得税率が33%に達したり、社会保険診療報酬が5000万円を超え、概算経費率が使えなくなった頃がひとつの目安になります。

医療法人のメリット・デメリット

多くの時間と労力と資金をかけて医療法人を設立するには、それに見合うだけのメリットがあるからです。しかし、デメリットやリスクがない訳ではありませんので、慎重かつ総合的な判断が必要になります。

【 メリット 】

  1. 院長( 理事長 )や法人に従事している院長の家族( 従業員 )に法人から給与を支払うため、所得を分散する事が可能で税金の負担を軽減できる。
  2. 給与の支払いを受けている院長( 理事長 )や院長の家族( 従業員 )に退職金の支払いができる。
  3. 分院や介護事業等の新規事業展開、吸収合併、事業承継ができる。
  4. 院長( 理事長 )の出資持分を生前に親族に贈与する事ができるので、相続がし易くなる。
  5. 院長( 理事長 )がなくなっても法人は継続できるので、新たな院長( 理事長 )を選出するだけで事業を継続できる。
  6. 収支を個人と法人で明確に区分できる。
  7. 銀行等の金融機関や患者等、対外的な信用力が高まる。

【 デメリット 】

  1. 法人の利益を院長( 理事長 )が自由に使う事ができない。
  2. 役員賞与や余剰金の配当はできない。
  3. 社会保険への強制加入が義務付けられている。
  4. 決算期ごとに、財産目録、決算書に加え、事業報告書の作成が義務付けられる。
  5. 交際費は経費として認められる額に制限がある。
必要経費について ( これは経費になりますか? )
医院・クリニックの経営上支出した費用は、すべて必要経費となるわけではありません。
個人的な飲食や遊興費はもちろん必要経費になりませんし、医院・クリニックが自宅と併用している場合は、光熱費等も医業に使用する広さや割合で必要経費を算出する必要があります。支出を税務上の必要経費とするのは、その支出が経営上、直接要した費用及び関連した費用である事が必要で、適正に計算し控除しなければなりません。

【 必要経費にならない主な支出 】

  • 家事関連費用( 家事に使用した光熱費・食事代・生活費・養育費 )
  • 生計を一にする配偶者とその他の親族に支払った給与・家賃( 青色専従者を除く )
  • 事業主の退職金
  • 国民健康保険
  • 生命保険料
  • 税金( 所得税・住民税とその延滞金等 )
  • 罰金・科料等
  • 故意、重大な過失による損害賠償
所得税の節税対策に良い方法がありますか?
勤務医の頃は給与から自動的に所得税や住民税が天引きされていたと思います。
しかし開業医になると、自分で税金の納付や申告をする他にも、スタッフの給与から税金を徴収して納付・申告も行なわなければなりません。そのため開業医でもできる節税対策が必要になります。

【 青色申告は効果的な節税対策 】
効果的な節税対策に、自ら税法に従って所得と税額を正しく計算し納税するという青色申告制度があります。 青色申告には次のような様々な特典がありますが1年間に生じた所得を正しく計算し申告するための収入や必要経費の取引状況を記帳し、その書類を保存しておく必要があります。

【 青色申告の特典 】
1 ) 青色申告特別控除
不動産所得または事業所得を生ずべき事業を営んでいる青色申告者で、これらの所得に係る取引を一般的には複式簿記により記帳し、その記帳に基づいて作成した賃借対照表と損益計算書を確定申告書に添付して提出している場合には、最高65万円を控除する事ができます。

2 ) 青色事業専従者給与
青色申告者と家族(生計を一にする配偶者とその他の親族)のうち、年齢が15歳以上で、その青色申告者の事業に専従している人に支払った給料・賞与は、届出書に記載された金額の範囲内で適正な金額であれば、必要経費として認められます。

3 ) 純損失の繰越しと繰戻し
事業所得などが赤字になり、純損失が生じたときには、その損失額を翌年以後3年間にわたって各年分の所得から差し引く事ができます。また、前年も青色申告をしている場合は、純損失の繰越しに代えて損失額を前年の所得から差し引き、前年分の所得税の還付を受ける事も出来ます。

4 ) 医療用機器等の特別償却
青色申告をしている医療法人が医療用機器等( 新品 )を購入した場合、特別償却の適用が受けられます。特別償却とは、取得金額が1台または1基500万円以上のものを購入した場合、その医療用機器の普通償却限度額と特別償却限度額(医療用機器の取得価格の12%)との合計額を償却限度額とする制度です。この制度を利用する場合には、明細書を確定申告に添付しなければなりません。

役員の給与・賞与・退職金などは損金算入( 必要経費 )が認められますか?
下記の要件を満たす事で必要経費として認められます。

1 ) 定期同額給与
支給額が1ヶ月以下の一定期間毎でかつ支給額が同額である給与。

2 ) 事前確定届出給与
役員の職務につき所定の時期に確定額を支給する定めに基づき、管轄の税務署に事前の届出をしている給与。 ただし不相応に高額な役員給与は必要経費として認められず課税対象となり、また医療補法にも余剰金の配当禁止規定がありますので注意が必要です。

当法人の理事長( 役員 )が退職することになり、退職金を支給したいのですが必要経費として認められますか?
認められます。役員の退職給与は、不相応に高額でない金額であれば認められます。
ただし、その適正額はその役員の勤続年数、退職事情、同規模法人との比較等を総合的に判断しなければなりません。
当法人で15万円の医療器具を購入しました。全額その期に経費にできると聞いたのですが大丈夫ですか?
その期の必要経費にできます。
申告を条件として取得額30万円未満の減価償却資産は一括してその期に費用計上することができます。( 年間合計300万円を限度 )。また、取得額20万円未満の減価償却資産は、その全部または一部を一括償却資産として3年間で均等償却することができます。
※医療法人で使用する医療機器には耐用年数が定められており、これに基づいて毎期償却することになります。
ゴルフクラブに法人会員として入会しました。入会金・年会費・プレー料金は、交際費として経理処理するのでしょうか?
入会金は資産、年会費は交際費として処理します。
ただし、特定の人だけが利用する場合は給与として取り扱うことになります。また、プレー料金は業務遂行上であれば交際費、それ以外であれば給与としての取り扱いとなります。 その他にロータリークラブ等の社交団体に法人会員として入会した場合は、入会金・会費とも交際費として取り扱います。
医師会主催の海外視察旅行に院長が参加しました。この費用は全額経費となりますか?
業務の割合によって決定します。
海外視察のための渡航費用については細かく定められています。一言で説明しますと「業務に従事する割合によって経費の割合も決まる」となります。逆に業務割合が1割以下となる場合は、経費として認められません。この割合を算出するには細かな規定がありますので、詳細は顧問税理士に相談しましょう。
クリニックのホームページを制作したいと考えています。制作費用は広告宣伝費として処理すればよいのでしょうか?
広告宣伝費として必要経費になります。
ただし、データーベースやネットワーク等の高度な機能を付加するといったシステム開発やプログラミング等の費用の場合、ホームページとソフトウェアの制作費用と区分して処理します。ソフトウェア費用は無形固定資産として計上し耐用年数に応じて減価償却します。
当法人では、大学病院から週に1日程度医師の派遣を受け、その都度給料を手渡ししています。派遣医からは「天引きされる所得税が多い」と不満の声が多いのですが、天引きされる所得税を減らすことはできますか?
月額表乙欄の税率を適用することで天引きする税金を少なくできます。
多くの医療機関で大学病院の医局から医師の派遣を受け、診療業務に従事させていますが、慣習として日払いが多く、この場合、給与の税額は日額表乙欄が適用され、税額も高額になってしまいます。その対処法として、派遣医に対して月額の給与をあらかじめ決めておき、月ごとに、または派遣を受ける都度に分割して支払うといった基準を設け、月額表乙欄の税額を適用することができます。
役員や看護師に社宅を提供した場合、給与となるのでしょうか?
適正な家賃を徴収すれば給与となりません。
役員に社宅を貸与する場合、その家屋が自社所有か借上げか、床面積、豪華さ等によって適正な賃貸料を算出します。徴収する家賃が算出した適正賃貸料以下の場合は現物給与となります。また豪華であるかの判定も、床面積や取得価格、内外装、設備等を総合的に判定し徴収します。時価( 実勢価格 )の方が大きい場合は、その差額が給与として取り扱い、源泉徴収が必要です。また、看護師や従業員に貸与する場合は役員とは異なる算式で適正家賃を算出します。この適正賃借料の半額以上を徴収すれば、給与課税はされません。
看護師が残業した場合、夜食を支給していますが、給与所得として課税しなければいけませんか?
勤務時間以外の勤務によって支給される夜食は課税する必要はありません。
通常の勤務時間以外の時間に仕事をした看護師( 従業員 )に対して、食事を支給した場合、それが勤務をすることによって支給されるものであるときは、課税する必要はありません。 なお、食事代として、金銭を支給した場合は給与として課税されることになります。また、正規の勤務時間による勤務の一部または全部が深夜( 午後10時から翌日の午前5時まで )に及ぶ深夜勤務者に対しては夜食の支給ができないため、これに代えて通常の給与に加算されて支給される夜食代で、その支給額が勤務1回については300円以下のものについては課税されません。なお、支給額が300円を超えるかどうかは、消費税及び地方消費税を除いた金額により判定することになります。
交通事故の被害者の療養に関する消費税は非課税ですか?
自動車事故の被害者に対する療養の消費税は原則非課税です。
これは自賠責保険だけでなく、任意保険や自費、または医療機関が必要と認めた療養費すべてに適用されます。しかし、例外として、保険外の差額ベットや診断書の作成は課税売り上げとなります。
産婦人科特有の消費税の取り扱いがあると聞いたのですが?
助産に関わる医療は原則非課税となります。
医師や助産師、医療に関する施設の開設者の非課税による助産の範囲が次のように定められています。

  • 妊娠検査
  • 妊娠後の検診・診療・入院
  • 分娩の介助
  • 出産後の検診・診療・入院
  • 新生児の検診・診療・入院

人工妊娠中絶に関わる収入は、医療に該当するものは非課税ですが、自由診療収入となるものは助産に該当しないため課税対象となります。